中学時代、担任で部活の顧問の教師から性被害に遭った私は、無事高校に合格し希望に満ちた高校生活を送る予定でした。
しかし、その高校のバレー部には見た目が極道としか思えない顧問がいたのです。
「1週間以内に退部してやる」そう決意していた私ですが、顧問に「俺はお前を殴らない」と言われたことで、顧問との関係に変化が生じ始めていました。
変化していった顧問との関係
顧問から「俺はお前を殴らない」と聞いた時は、正直半信半疑でした。
しかし、入部して2週間たっても、3週間たっても顧問が私を殴ることはありませんでした。
また、彼が他の部員を殴るという場面を見ることもありませんでした。
当時彼に言われたことは
好きなことくらい楽しんでやれ
明るいことが取り柄の人間が暗くなったら楽しくない
という事でした。
次第に私は彼との会話が増えるようになりました。
数年前の生徒達との会話
私のそんな姿を見た上級生たちは「栗栖よくあの先生と話できるね」と笑っていました。
ただ、中学時代自殺を考えるほど苦しい思いをしていた私にとって、暴力も振るわず暴言も吐かない彼の存在はありがたかったです。
実はこの時期、顧問が以前いた学校で指導していた卒業生数人と会う機会がありました。
彼らは私が顧問と会話をしている姿を見て
お前あの人怖くないの?
と口々に聞いてきました。
彼らの話によると、昔は
話しかけることなどできなかった
そうです。
目が合うと殴られると思った
とも言っていました。
恐らく数年前まではかなり暴力的な指導をしていたのだと思います。
相当怖かったのでしょうね…
ボールはいつも上にある
実はこの時期、顧問に一度だけ怒鳴られたことがあります。
彼は私がミスをすると何時も下を向くので「気にするな」「ミスしたくらいで下を向くな」と言っていました。
ただ、中学時代に加害教諭から何度も脅されて下を向かされたという習慣はすぐに治るものではありません。
条件反射のような感じになっていた部分もあると思います…
顧問に言われたものの、ミスをすると私は下を向いていました。
その時でした。
下を向くなと言っているんだ!
彼の大きい声が体育館内に響きました。
この時は恐怖で身がすくみました。
もしかしたら殴られるのかな…
と思ったのですが、顧問が殴ることはなかったです。
その代わりに彼が私に言った言葉が
バレーボールは床にボールが落ちたら終わりなのだからいつも顔を上げていないといけない
という事でした。
ボールはいつも上にある!
この言葉はよく覚えています
私は高校1年の10月末くらいにバレー部を退部するのですが、それまでの間に彼から怒鳴られたことは数回しかありませんでした。
教える人間と教わる人間との信頼関係について
私が顧問から怒鳴られたことで、彼との関係が悪化するという事はありませんでした。
私の彼に対する印象は「私の事をよく見てくれている人物」と言うものです。
私がプレーで手を抜くと、彼その時は何も言わないのですが、後で二人きりになると
あれ捕れたよな
と言ってきます。
中学時代私に性暴力を行った加害教諭も私をよく見ていましたが、彼が見ていたのは性暴力を加える対象としての私であって、それ以外の部分は全く見ていませんでした。
スポーツに限らず指導者と生徒との関係で一番怖いのが、信頼関係がなくなることです。
彼が私をよく見てくれているという事は、私を信頼してくれているという事だと思います。
信頼関係に基づく人間関係を壊すことほど怖いものはありません。
中学時代とは全く違う意味でのいい緊張関係が顧問との間には存在していました。
教師と生徒の信頼関係と言うものは暴力的な指導では生まれないものだと思います。
私のいた高校はバレーボールの強豪校ではありませんでした。
そのため、私も大した選手ではありません。
ただ、それでもやはり指導が必要な時があります。
ただ、暴力ではないですよ
彼の指導において非常にありがたかったのが、彼は何か私に厳しい事を言う時は、必ずあとでフォローを入れるという事です。
あの時に言ったのはこういう事なんだよ
当時は彼との間にかなりの信頼関係があったので言われなくても分かってはいました。
しかし、彼がアフターフォローを入れてくれるおかげで「この人は本当に自分をよく見ている」と信頼を深めることが出来たのは事実だと思います。
ただ、これは小学校の先生たちもそうしていましたので、彼特有ではないと思います…。
それだけ中学時代の教師たちのレベルが低かったんでしょうね…
私が高校生だったのは1990年代前半です。
当時運動部の指導者には大した人物でもないのにふんぞり返って、部員を強制的に退部させたりとやりたい放題の人物が沢山いました。
大会の会場で他校の生徒を殴りつける指導者もいた時代です。
当時通っていた高校のすべての先生方を覚えているわけではないのですが、一年間に一度も生徒に手を上げないという先生はほとんどいなかったと思います。
そんな時代に全く暴力も暴言もなく部活動が出来たことは奇跡に近いと思います。
彼の事は理想の教師だとも理想の指導者だとも思わないですが、彼に言われた言葉のいくつかが私を現在でも支えているのは事実です。