相談件数は過去最多に──浮き彫りになる指導現場の課題
2025年4月、日本スポーツ協会は「2024年度におけるハラスメント相談窓口への相談件数が536件に上った」と発表しました。
https://www.sankei.com/article/20250416-RYG3OIIXYBJRJFKYQDK333TPGU/
これは、2014年度から統計を開始して以来最多であり、前年度比でも51件の増加となっています。
特に注目すべきは被害者の約半数が小学生であるという事実です。
相談者の6割以上は保護者であり、本人からの相談は全体の17%に過ぎません。
小学生が自分から電話で相談をすることはあまり考え難いというのは事実だと思います。
ただ、その事を考えてみても、「声を上げづらい子どもが被害を受けている」というのは本当だと思います。
自分たちの時代は「当たり前」だった暴力と暴言
私自身の体験ですが、中学生の頃は、練習試合の結果が悪ければ廊下で正座をさせられ殴られるということがありました。
しかも、他の教師たちが廊下を通っているのに、平然と正座した生徒を平手打ち…。
「ここまでやる必要あるのか…」という教師もいましたが、やっていた本人は「知ったことか」という感じでした。
試合に負ければ「アイツのせいで負けた」と学校中で言いふらされましたし、それ以外にも、指導者が他の部員に「こいつを殴れ」と命じることすらありました。
試合に勝てばすべて教師のおかげ、負けたら全ては生徒の責任というのが中学時代でした。
他の部活がどうかは正直それほどわからないですが、日常的に生徒を殴る指導者は、それほど多くはなかったと思うのですがいました。
当時は、体罰や暴言はスポーツに「付きもの」だと考えられていたのです。
しかし、高校に進学してから、私の認識は大きく変わりました。
これは他の記事でも述べているのですが、高校のバレー部の顧問は、バレーボールの専門家でした。
彼からは、一度も暴力を振るわれず、暴言も一切ない指導を受けました。
中学時代と高校時代は両極端と言えるほどの環境だったと思います。
しかし、その両極端の環境に自分が置かれたことで、私自身の考え方は大きく変わりました。
「スポーツに暴言や暴力は不要だ」。
今はそう思っています。
「厳しさ」と「暴力・暴言」は違う
もちろん、上達のために厳しい練習をしなければいけないときもあります。
ただ、厳しさ=暴力的な指導であるという考え方は取るべきではないと思います。
厳しい練習というものは、本来、苦手なプレーをできるまで頑張るとか、他の子供達が遊んでいる時に、自分たちは頑張って練習をすると行ったもののはずです。
私が中学生の時の一部の指導者が考えていた、厳しさ=暴力という発送は明らかな間違いです。
また、指導の現場では、ルールを守らず周囲に迷惑をかける子どもへの対応が必要な場面もあります。
暴力的な指導によってこれを抑えるのは今の時代ではアウトでしょう。
ただ、そういう子どもを放置することは他の子どもに対してマイナスになります。
こういったトラブルに対しては、暴力や暴言で押さえつけるのではなく、組織のルールと仕組みで対応することが大事です。
「このチームではこういうルールで動く。ルールを守らないと活動できない」とあらかじめ共有する仕組みづくりこそ、今求められている指導スタイルだと思います。
体罰の禁止ということは「組織内にルールがなくて良い」ということとイコールではないのです。
ルールがあるからこそ、安心して育つことができる
「子どもが自由にのびのびと育つべき」という意見もある一方で、ルールや秩序がなければ、指導者も保護者も現場で困ってしまいます。
明確なルールを設け、その中で自律と成長を促すことが、健全なスポーツ指導の基本です。
サッカーも野球もルールがあるはずです。もしルールがなくてサッカーをやったらとんでもないことになってしまいます。
ルールなき組織は無秩序になりますし、ルールなきスポーツはスポーツではありません。
指導者・保護者・子どもたちが同じ認識を持てる環境こそが、暴力や暴言のない指導を実現するカギとなります。
子どものために「安心できるスポーツ環境」を
日本スポーツ協会がハラスメント相談窓口を設け、件数が増えていることは悪いことばかりではありません。
相談のしやすさが向上し、意識も高まってきているからこその数字とも言えます。
私たち大人ができるのは、「昔はこうだった」と押しつけることではなく、これからの子どもたちが、暴力や暴言のない環境で育つように仕組みを整えていくことです。
安心して取り組めるスポーツ環境があれば、子どもたちは本来の力を発揮できるのではないでしょうか。
まとめ:スポーツに必要なのは「暴力」ではなく「信頼」
これからの時代、スポーツに求められるのは厳しさではなく信頼と対話に基づいた指導です。
もし指導の現場で悩みがある方、チーム運営に課題を感じている方は、「ルールづくり」から始めてみたらいかがでしょうか。
それが、暴言や暴力に頼らない健全な環境づくりの第一歩になります。
最後に、学校やスポーツクラブ内でのいじめや体罰、性加害の問題が起きる場合、その大半は組織内に何かしらの問題を抱えていることが多いです。
嘘だと思ったら、問題のおきた組織を見てください。
全く同じとは言いませんが、何かしらの共通項が見つかるはずです。
「怪我の功名」なのかわかりませんが、私は中学時代あまりに問題のある人物がいるクラス・部活に所属していたのでその事は本当によく分かります。
中学3年間の異様な体験について本を書けと言われたら、書けるくらいです。
「急げば回れ」といいますが、組織内の問題を解決するためには、丁寧な組織運営こそが求められるのだと思います。